ミミクリーの小部屋
The Mimicry Room

名作「不思議の国のアリス」のためのインスタレーション制作の委嘱を受け、物語の中の不思議な世界に入り込んだような体験ができる空間を作りたい、と考えました。
アリスが体験する様々な常識では考えられないような出来事は、不思議であると同時に、私達が幼い頃に空想していた、「こうなったら良いな」「こうなったらどうしよう」といったワクワク・ドキドキする知的好奇心に満ちています。
インスタレーション制作にあたって数々の「こうなったら良いな」を書き出して沢山の案を出しあって、最終的に決定したのは、美しいジョン・テニエルの挿絵が自分に反応して動き出す、という案でした。

2.5m四方の小さな部屋は、「アリスの世界とつながるための特別な場所」としてデザインしました。部屋の壁に掛けられた14個の額縁の中にはiPadが収められていて、それぞれアリスの物語に登場するキャラクター達が描かれています。キャラクター達はジョン・テニエルの原画を参考にして3Dモデルデータを作成し、シェーダプログラミングによって、まるでハッチングの手法で描かれた絵画に見えるようにリアルタイム画像処理を行っており、一見すると通常の絵画が並んでいるように見えます。
部屋の中央の絨毯の上に人が立つと、立つ人のポーズをKinect v2センサーが検知し、全ての額縁の中のキャラクターがゆっくりと動きだして立つ人のポーズを「真似」します。
アリスの世界に溢れている遊び心は、現在の私達の暮らし方、働き方における示唆を多く含んでいます。オランダの歴史学者ヨハン・ホイジンガは「遊戯」が人間活動の本質であり、文化を生み出す根源であると説きました。フランスの哲学者ロジェ・カイヨワはその人間観を発展させ、「真似」を意味するミミクリーを遊びにおける四大要素の一つに挙げ、特に原始的な社会において重大な役割を担っていたとしています。また、小林秀雄は『モオツァルト』の中でモーツァルトが模倣の天才であり、その独創的な音楽は模倣の中から生まれたものであったと指摘しています。

私達は遊びから多くのことを発見し、文化を発展させていくことができます。
多くの人がアリスの物語や本展示を通して、日常をより遊びで満たしていくことの大切さを感じとって貰えれば、と思いながら制作しました。